将来を見通す、「ブラッシング指導」 の舞台裏



 歯周病予防や治療などの目的のために歯科衛生士は、ブラッシング指導に入りますが、

その理想型としては、多くの場合、
「プラーク(歯垢)の少ないきれいな口腔内の状態を患者様自身が保つことが出来る」レベルにする、といったところでしょうか。

 歯周病はプラークが歯に付かないと発症せず、
プラークを落とすことで大きく改善することがほとんどなので、その因果関係をかなりはっきりと目で確認することができます。

それを毎日の診療で目の当たりにし、
「プラークを落とすことで、歯周病で歯を失うことを防げる」 と強く思う歯科衛生士としては、

とにかく、患者様に「プラークの少ない状態を毎日継続」してもらおう、と思ったりするのですが、
患者様の状況によっては、そう上手く行かない時もあります。

もちろん、プラークを落とすことの大切さを認識して、熱心に歯磨きをされたり、
歯周病の進行しない状態に出来る方も多いのですが、

 例えば、双子ちゃんや幼いお姉ちゃんお兄ちゃんの子育て中とか、そうでなくてもそれに匹敵するぐらい忙しい時期も現実にある。
若くて虫歯になったこともなく、歯磨き習慣があまりついていないかたもいらっしゃいます。

 そこで歯科衛生士としては、どうしても今は忙しくて時間をかけられないなど、それぞれの患者様に合わせた方法を考えます。

これは歯科衛生士自身としてもそれぞれやり方で、歯科衛生士のブラッシング指導に決まったマニュアルはないので、
実は私も他の衛生士さんのやり方を知らず、意外に公開されていなかったりするのですが、
(企業秘密? (笑))
今日は私のやり方を少し、書いてみたいと思います。
(正解、とかではないので、期待されないように。(笑))

 私は、「歯の磨き方を覚える」ということと、それを「毎日継続する」ということを分けて考えています。
同じように、例えば、
「歯磨きは大切で、したいと思っているけど大変すぎて出来ない」のか、そもそも(困る症状がでていなくて等)「今そんなに必要ない」と感じてしないのか、
など、理想とする歯磨きをゴールとした場合、今その患者様が、どの段階にいるのかを考えます。

 教育学者の齋藤孝先生(メディアにもよく出られている有名な先生です)の「段取り力」という本を参考にさせて頂くと、
段取りとは、現時点からゴールまでの坂道に階段をつけて上りやすくする、と同時に、
現在いる段階から、もう下に、下がらないようにする、ということがあるようです。

「ブラッシング指導? 確か10年ぐらい前に受けたけど、覚えていないな~」
と、今入ったブラッシング指導が時の流れで全くの無駄になり、また一からブラッシング指導を始め、
それも無駄になる、ということを繰り返さず、
患者様が長い年月に渡っても少しずつでも歩みを進め、歯周病によって歯を失うことが少しでも回避できるように、
歯科衛生士として、段取りを組みます。

 現在、とても忙しい状況で、今、歯周病の症状がほとんどなく、虫歯でもなくて、痛くも痒くもない患者様が、
「丁寧に磨けば今後も歯周病にならず、歯も失わないので、時間をかけて細かく歯ブラシを動かして磨いて下さい。」という歯科衛生士の話を聞いても、歯磨きに時間をかけることができずに歯垢の残る日ができてしまう。
ということは、あります。
患者様の立場に立って考えると、理解できるところです。

 でもその患者様が30年後、重度の歯周病になって、それでも歯を磨かない、
とは限りません。

患者様が歯を残すために、「磨きたい」と思ったその時、
歯周病の進行を止められるぐらいの技をすでにマスターしているか、出来ないのかで、運命が分かれるときもあります。

「抜くかも知れない、でも、もしかしたら残せるかも知れない」という恐怖の中、
毎日、一所懸命ブラッシングを続け、
毎回、歯垢が残るブラッシングのアラを指摘される。

実際、歯の喪失原因の第一位は歯周病なので、
こうなってしまうと、抜かなければいけない可能性は、高くなります。

「残せる」と思えば、患者様も頑張り続けられますが、
上手く磨けないことがネックになる患者様もいらっしゃる。

20~30歳代に、とりあえず、磨けるという技を習得しておくのと、60歳代になってから始めるのは違いますし、
一度磨けるようになったブラッシングの方法は、また始めれば思い出すことができる。

 若い頃のブラッシング指導時に、健康な歯ぐきと歯周病の歯ぐきの写真を見せ、
歯周病の歯ぐきを、ある程度見た目で判断でき、年齢を重ねれば多くの方が歯周病に罹る、という知識を付けておけば、
見た目で、「自分の歯ぐきはそろそろまずいな」と、判断がつき、
重度になる手前の段階で、歯科医院にいくことが可能です。

 ブラッシング指導の目的は、少しでも長く患者様に、健康な状態で過ごして頂くこと。
歯ブラシの動かし方をお伝えすることは、その一端に過ぎません。
 例えそれが思い通り、理想的に進まなくても、その時その時の患者様の状況を見て考え、
今、自分自身が出来る最高のことは何かを考え、実践していくことは、大切だと思います。

 

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