なぜ、歯ブラシで、歯ぐきは傷つくのか? (歯ブラシの動かし方)

 今回は、なぜ歯ブラシで、歯ぐきは傷つくのか、
歯ブラシの動かし方を書いてみたいと思います。

 歯科衛生士は、ブラッシング指導をします。
初回、ブラッシング指導に入ると、次回までに患者様が一所懸命磨いて下さり、歯ぐきに傷をつけてしまうことがあります。

「丁寧に磨こう」、「歯垢を落とそう」と磨いているときほど、傷がつきやすい。
今日はこれを回避するため、歯ブラシで歯ぐきを傷つけにくい方法を書いてみたいと思います。

ちょっと医学っぽい表現になりますが、(笑)

 歯ブラシで歯ぐきに傷がつく、ということは、
歯ぐきの表面にある、上皮の組織片がはがれた、ということだと思います。

簡単に、「こすった」という状態ですが、(笑)
歯ブラシで、歯ぐきの表面をこすり、
ある程度多量に組織片がはがれると、「傷」になります。

 傷をつけにくくするポイントは主に、「力加減」と、「歯ブラシの移動」にあると思います。

「力を入れて、こすった」、を意識して回避します。
 歯ブラシの毛先が歯ぐきに当たった状態で、そこから移動する、これを出来る限り少なくすること。そして、力を抜いてみます。

 歯ブラシの動きを、よく「ストローク」という言葉で表すのですが、
例えば、写真の「青い線から黄色い線まで」5㎜の間があるとして、この間を動かすことを、
5㎜のストロークと言ったりします。

 今回、写真を見やすくするため「5㎜」のストロークとしていますが、
実は歯磨きのストローク、バス法は「1㎜」、スクラビング法も「1~2㎜」ほどのストロークで磨くのがよいそうで、
「5㎜」は大きすぎるようです。

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ついついしてしまいがちな、「5㎜ぐらいの大きなストローク」ですが、
これは大きく動かしすぎです。あまり大きく動かさず、1㎜ほどのストロークで磨いてみます。

さて、1㎜のストロークとはどれぐらいか、と考えると、実際には、ほとんど動かしていないのではないか、と思われるぐらいの小さな動きです。

なので私は、ほとんど動かさない、0㎜のようなストロークでお勧めします。

0㎜のストロークで歯垢は落ちるのか?と思われるかも知れないのですが、
歯垢は、毛先が当たり、それが振動することで落ちます。
毛先の当たった位置から、毛先の位置を動かしても、その移動で歯垢が落ちるわけではなく、歯垢に毛先が当たった状態で、そのまま振動すると歯垢が落ちます。
剥がれる、という感じにちかいと思います。
毛先が、きちんと当たっていること、それがその部分の歯垢が落ちることになります。

逆に、このストロークが大きいと、歯ブラシは歯間などの細かい場所に毛先が入ることなく通り過ぎることになり、
歯垢はあまり落ちない磨き方になります。
(詳しくはコチラの記事。『なぜ、「普通?の歯の磨き方」では歯垢が落ちないのか、検証してみました。(3面磨きの方法)』

そこでストロークを細かくし、歯間などの凹凸にも毛先を届かせて、歯垢が取れるように磨きます。
毛先の位置をほとんど動かさず、細かく磨く、
こうすることで、歯と歯の間など細かいところにも毛先が届き、そこの歯垢が取れますし、
歯ぐきが大きく擦られるということも減ります。

 さて、0㎜のようなストロークで磨くとは、どんな感じでしょうか。

毛先の位置を変えずに、
歯ブラシを手前と奥に振動させます。

ちょっと極端に、毛先の向きだけ変えた写真を載せてみます。

まず毛先の位置を青い線のところで固定したまま、
歯ブラシをその場で奥に振動させ、

IMGP3966 point3

 

次に手前に振動
IMGP3967 point3

青い線の毛先の位置を動かさずに、振動させていることが分かりますか?
写真では奥と手前に傾いた毛の向きを見やすくするため、実はかなり位置が動き、力が入っていますが、
実際に磨くときは、毛先を当ててその場で揺らすようにすれば、毛先の位置を移動させないことができます。
また力を入れないことも大切ですので、毛先を当てた場所から動かさず、「ただ、当たっているだけ」というぐらいの、弱い圧で磨きます。

なので、実際にはこんな感じです。

P1030834 point5 P1030833 point

 毛先を一度当てた、歯肉溝のところから動かさずに、ただ振動させています。
揺らしているだけの、微妙な動きなので、
写真で見ると、非常に見にくい。(笑)
圧も、ただ当てているだけのような力加減。
歯ブラシを歯ぐきに当てているとき、とにかく力は入れません。

 実はこういう風に、ほとんど移動しないようにして振動させ、無意識にずれてしまったくらいの移動、それが1㎜のストロークです。

始めから1㎜のストロークで磨こうとすると難しく、気づけば5㎜など大きなストロークになってしまうことがとても多いです。
なので、1㎜で覚えなくてもいいのか?と気負わず、0㎜ストロークで磨くことを覚えた方が、すぐに正しい磨き方ができます。

 ちなみに私は、患者様の歯を磨くとき、いつもこの0㎜のようなストロークで磨いていました。
 患者様の歯ぐきは、炎症を起こしていることがとても多くて自然とそのようになったのですが、
つまり、こういうことです。

歯垢は歯ぐきに炎症を引き起こそうとする細菌の塊なので、
歯垢に触れない状態の続いた歯ぐきは引き締まり、組織同士が密で硬い状態、
軟らかく擦られても、比較的、傷がつきにくいのですが、

歯垢がついて時間の経った歯ぐきは、歯垢の中の細菌が、歯ぐきの炎症を引き起こして、
歯ぐきの表面が軟らかく、組織片がはがれやすい状態になっています。

そこで、なるべく傷をつけずに歯垢を取り除く、
それが、0㎜ストローク(毛先の位置を移動させない、つまり擦らない)、 そして、力を入れないで磨くという方法でした。

 歯ぐきに歯ブラシの毛先(機械的な刺激)が当たる以上、これで組織片がはがれないとは言えないのですが、歯垢がキチンと取れ、歯ぐきがキチンとマッサージされ、傷のない、完璧なプロとしての歯磨きを心がけます。

決して患者様の歯ぐきは傷つけられず、歯垢はしっかりと落とさなければならないので、このような磨き方になるのですが、

患者様の口の中は完璧を目指してキチンと磨きますが、
自分の口の中はもう少し適当に磨きます。(笑)
(歯ぐきも軟らかくなく、力もいれず、傷つかないので。(笑))

 歯周病にかかられて歯ぐきに炎症の残る方、まだ、引き締まった健康な歯ぐきになる前の方で、
でも担当の歯科衛生士さんに、歯ブラシを当てて下さい、と言われているぐらいは歯ぐきの状態の安定している方は、
この0㎜のようなストロークで力を入れずに磨くと、傷つきにくい磨き方が出来ると思います。

そして炎症が無くなったあとでも、0㎜のストロークで磨くと、簡単に(というかほとんど無意識にでも)1㎜のストロークで磨けるようになります。

 とくに、「今日は歯医者さんへ行く、キレイに磨いて行かなきゃ」と気合いが入る日、
今日はぜひキレイにしたいと気合いが入る日は、
けっこう高確率で、歯ぐきが傷つきます。

(歯医者さんに行く日は、 というわけではありませんが、(笑))ぜひ0㎜のようなストロークで磨いてみて下さい。

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