「なぜ、歯垢は落としづらいか」(バイオフィルム)

 「歯垢 落ちない」のキーワード検索で、サイトに訪問してくれた方がありました。
 今日はこれについて考えてみたいと思います。

 「歯垢」は歯ブラシで簡単に落とすことができます。
と、よく言われます。

 ではなぜ、「歯の磨き方」を習わなくてはならないほど、歯垢は落ちにくいのでしょうか?

それには歯垢のもつ「特徴」が関係しています。
「そこにある歯垢」だけを狙って歯ブラシを当てたとき、確かに歯垢は軟らかく、簡単に落とすことができますが、
口の中全体で見たとき、その全ての歯垢を落とすことは容易ではありません。

 その理由で思い当たるものを書いてみます。

 一つは、歯垢のもつ「粘性」。

 歯垢の中の細菌は、歯面に付くと、歯面から容易にはがれ落ちることのないように、歯の上に粘性物質をだして付きバリアを張ります。(バイオフィルム)
 これが、歯面から歯垢が落ちにくくなる要因の一つです。

 よく言われるのが、台所の三角コーナーの「ぬめり」ですが、
粘性の物質の中に、細菌叢が集落を形成しています。

 これと同じような状態が、歯や歯周ポケットの中にもあり、
ねっとりと歯に絡みついて、容易には落ちないようにしています。
 歯ブラシ等、機械的な破壊があれば落ちますが、「うがい」だけでは落ちません。

 

もう一つは、歯垢の「柔らかさ」です。
 例えば、大きな汚れが固まっている場合、その端の方をはがすことが出来ると全体がはがれてくる、ということがありますが、
 通常、歯垢にはそれが期待できません。
豆腐のように軟らかく、すぐ崩れるため、歯ブラシの毛先が当たったところの歯垢は落ちますが、その歯垢とつながっっている全体が落ちるわけではなく、崩れて歯ブラシの毛先に当たらなかった部分の歯垢は、歯面に付いたままの状態になります。
 この極端に言うと、落としたい歯垢の全てに歯ブラシの毛が当たらなくては歯垢は落ちない、というところが、口の中にある歯垢を全部落とすことを困難にする理由だと思います。

 そしてこれらにさらに追い打ちをかけるのが「歯垢の見えづらさ」です。

 歯垢は歯のような白色をしていて見にくい、ということもありますが、
よく見て「歯カス」のようにはっきりとみることが出来なくても、実は歯垢が付いていることがあります。

 歯科医院で「染め出し液」を使った御経験のある方は分かるかもしれませんが、
例えば八重歯の横に一本引っ込んでいる歯があると、その一本に歯ブラシの毛が当たらず、極端に赤く(歯垢の付いている部分が赤く染まる液=染め出し液)染まったりします。
 ただ、染め出しの前に目で見た状態では、とくに「歯カス」のようなはっきりとした歯垢が見えているとは限りません。

 かなり歯垢の量が増えてきた状態では、目でも確認できますが、
その状態にまでならなくても、歯垢が付いているということは沢山あります。

 この「容易に目で見えない」という特徴も歯垢を落としにくくする要素です。

 台所の三角コーナーも、スポンジで擦っただけですっきりとキレイに汚れが取れるとは限らず、洗ったのにまだ「ぬめり」が残っている、などという状態になることがありますが、
 口の中でも同じようなことが起こります。

 歯を磨いてつるつるになった、と感じるときばかりではなく、磨いてもすっきりしない、という感じは誰でも持ったことがあるのではないかと思います。

さて、それを少しでも克服するのに、歯の磨き方を覚えることも大切ですが、
もう一つ、その道具、歯ブラシなどを選ぶことも大切だと思います。
(こちらの記事も参照されて下さい。「なぜ、開いた歯ブラシは取り替えるべきなのか」

 

 現在、患者様のご家庭で歯ブラシ等をつかって、このバイオフィルムを完全に落とすことは出来ず、この落としにくい歯垢を安全に落とすように、手磨きの他、歯科医院でのPMTC(機械を使って専門的する歯のクリーニング)、超音波を使って落とす方法など、様々な方法が考えられています。 歯垢除去と一口にいっても、まだ先は長いのかもしれません。

とは言っても、
定期的に歯科医院でPMTCを行い、普段の歯ブラシ等によって、ある程度歯垢を落とすことが出来ていれば、多くの場合、歯周病を予防することが可能です。
 毎日の歯磨き実践は、決して無駄ではありませんので、ぜひ歯科医院に通われてブラッシング指導を受け、健康を維持されてください。(^^)


次、 よろしければこちらもご覧下さい。
なぜ、開いた歯ブラシは取り替えるべきなのか

 

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