(1)「保険と保険外の違い」、の基礎知識。 『健康保険』

 虫歯の治療などで、最後に被せる歯。

 歯科医院で、

  「保険、と、保険外ものどちらにされますか?」

と、選択を聞かれることがあります。

 保険外の方が保険の物より材質がいい、と説明を受けますが、

 本当に良い物なら入れたい、という気持ちはあっても、数万円、治療本数の多いケースだと数十万円、場合によっては数百万円単位にまでなる金額の高さに戸惑い、
何が違う物なのか、知っている人に聞いてみたい、という方も多いのではないでしょうか。

今日は、この選択について、ベースになる話を書いてみたいと思います。

 

 そもそも歯科の「健康保険」とはどういうもので、なぜ保険と保険外の選択が必要なのか。

まず、

1.歯科の『健康保険(公的医療保険)』 について。

 「国民皆保険」といいますが、日本国民は皆「健康保険」に加入している、という大原則があります。(社保、国保、健保組合、共済組合など)
日本の誇る公的な医療保険制度ですが、

その「健康保険」を使って歯科治療をした場合、その保険給付に使われる財源は、保険料と税金です。
そのため、どのような治療にいくらの「診療報酬額」が必要か、その額を厚生労働省が、「診療報酬点数」(1点10円)として告示しています。
 つまり、健康保険を適用した場合の診療報酬額は一種の公定価格で値段が決まっており、使える材料も、全て決まっているということです。

 例えば、虫歯の治療で金属を歯に被せる場合、
一番適合がよく、二次的な虫歯も防げる金属は現在、「ゴールドクラウン」(金合金や白金(プラチナ)などを加えた貴金属を使った被せ物)、と言われていますが、
現実に、保険で虫歯を治療する全員が必要になるたびに、高価なゴールドクラウン(金合金や白金(プラチナ)などを加えた貴金属)を使って治療し、それを保険給付していたのでは財政が持ちません。

 「金歯は売れる」と聞いたことがあるかも知れませんが、はずした金歯は、貴金属のリサイクルショップなどで買い取りしてもらえるほど価値があります。

 そこで、『健康保険(公的医療保険)』 としては、
財源から安定して保険給付を行える範囲の、安価な金属を保険適用することになり、
現在、保険で使える虫歯の被せ物の金属は、金銀パラジウム合金(金パラ)、銀合金、ニッケルクロム合金の3種類のみです。
 実際には、この中の金パラが一般的に使われることが多いですが(あとの2つは金パラよりも質が落ちるため)、金属組成、成分としては、金12%、パラジウム20%(この金とパラジウムの割合はJIS規格で決められていて、あとの金属割合は各メーカーで多少異なる)、銀50%前後、銅20%前後、その他イソジウムなどが数%入っています。
この割合を見ると分かりますが、実質では主に銀合金。 色も金色ではなく、いわゆる「銀歯」です。
 欠点としては金属の割合で科学的に安定せず、口の中で溶け出す、また金属アレルギーの問題などが指摘されています。
 そのような問題もあって、確かに安価ですが他の国では使わず、日本だけが使用している歯科用合金だそうです。

 このように、保険給付は、皆でお金を出し合い(保険料や税金)、それを財源としているので、一人一人に最高の材料(高価なもの)を使うことはできません。
厚生労働省が認めた安価な物で、全員が保険で治療を受けることができるように配慮されています。

 そして、より良い材料を使って治療したいと思い、
保険給付の対象となっていない材料(金パラ、銀合金、ニッケルクロム合金の3種類以外)を使う場合には、すべて「保険外」(自費)となり、自己負担で支払うことになります。
(ちなみに「白い歯」の場合、保険で使える材質は「プラスチックのみ」と決まっています。)

 いわゆる、「保険と保険外」を、患者様自身が選ぶ、という選択肢です。

 さて、より良い材料を求めて、「保険外」という選択をしても、それで全て欠点が無くなる、という訳でもありません。

まずは、金額的な問題。
保険外(自費)で被せ物(クラウン等)をする場合、自由価格(それぞれの歯科医院が自由に値段を決められる)のため、決まった価格はありませんが、相場は少なくても歯一本に付き数万円以上(セラミック(陶器)やメタルボンド(金属+陶器)だと、おおよそ10万円(8~14万円位)。という範囲の金額設定が多い気がします)。
 治療本数の分だけ「掛ける何本(数万円以上×何本)」で価格が提示されるため、本数が増えると、それだけ金額が増えます。

 保険と保険外(自費)の被せ物の材質の違いでは、
金属なら、主に適合性(ピッタリと歯にあって、隙間を作らず、そこに歯垢が入って二次虫歯になる可能性を少なくすること)等。
白い歯なら、材料は保険ではプラスチック、自費では陶器(セラミック)等になることが多いですが、
歯としてみた場合の自然な審美性、傷つきにくさ、年数経過での変質の有無、適合性、等の、
保険の物の欠点を、保険外(自費)の材料ではカバーしていることが多いです。

 ただし、保険外の材料はその歯科医院が、自由に選択しているもので、どの材料を使うか一律ではなく、ここで「最高の材料を使っています」とは言い切れません。
 何の材料を使ってどのように作るかは全てその歯科医院しだいで、誰が見ても素晴らしい材料である、というような保障やチェックはありません。

 ゴールドクラウンで金歯などは、保険外ですが、「歯との適合性がいい(ピッタリ合う)」など、材質的な利点があっても、「見た目が金色」という審美的な問題がある場合もある。(事前の話合いで解決。見た目てきに美しくなるように、金属の上に白い陶器(セラミック)を焼き付けた物(メタルボンド)などがよく使われます。)

また、セラミックは「噛み合わせの強い奥歯など割れることがある」等、保険外の材料にも欠点の有る場合はあります。
(もし割れたら、数年は無料、とか、割引価格で…など、保障のある歯科医院もありますが、ない歯科医院もあるので、事前によく話を聞かれて下さい。)

 どちらの選択をするにしても、治療する場合は、
御自分の受ける治療の内容をよく聞いて、納得して治療を受けられることが大切なので、
カウンセリングの時点で納得できなければ、他の歯科医院に行って説明を聞いてみるのも一つの方法です。

 また、もう一つ大切なことには、
保険外の物を使って治療したからといって、これで今後も治療が必要にならないという話ではないことです。
 治療後の再治療防止のためには、
ブラッシング指導などを受けて、歯垢を落とすように管理していく方法(プラークコントロール)を教えてもらうことが大切です。
プラークコントロールが出来ないと、歯周病にかかって、そもそも歯自体を失ってしまうリスクが大きくありますし、二次虫歯にかかることもあります。
 保険、保険外に関わらず、
治療後は、今後歯周病や虫歯にならないように、管理していくための方法、ブラッシング指導等を受けることが必要だと思います。

ただ、実はこの、歯周病「予防」のためのブラッシング指導も、保険外。
こちらは、数万円もする被せ物などに比べると安く、
美容院代を考えると、そんなに高くない値段設定のことが多く、
(各歯科医院によって自由に決められています。)
一生を御自分の歯で過ごせるか過ごせないか、ということにも関わるぐらい、大重要なことなので、ぜひ、受けられて下さい。
(歯周病「治療」の為に必要なブラッシング指導は、保険がききます)

 
治療をした後は、必ずブラッシング指導をお勧めする歯科医院もありますが、
そうでない歯科医院もあるので、事前のカウンセリング(自費の治療にするか、保険でするかの話し合い)の時に、そこを確認しておいたほうがいいかもしれません。

 「保険と保険外の違い」と言っても、治療する内容やケースによって違い、一概には言い切れませんが、大きなところではこんな感じでしょうか。

 今回は「健康保険」適用から見た、保険と、保険外。の記事になりました。

次回はこの続き、「歯科医師」の立場から見た保険と保険外、「歯科医院の本音と現実」について書いてみたいと思います。

次、(2)「保険と保険外の違い」、の基礎知識。 『歯科医院』の本音と現実。 にお進み下さい。

その後、この記事(1)(2)の続き記事になっています。
『自分に合った「良い歯科医院」選び。』

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